更新日:2012年02月23日
ここ数年、株式会社東レの役員であった佐々木常夫さんのことがマスコミで話題になっています。すでに何冊かの本を出されていますが、最近“完全版 ビッグツリー~自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて~”、が出版されましたので、購読してみました。
輸血の際に感染したB型肝炎により入退院を繰り返される奥様と自閉症のご長男を抱えながら、朝5時半には起きて3人のお子さん達の弁当を用意し、夜は6時の退社ときめ、帰宅後夕食を食べさせ、子供を寝かせた後会社から持ち帰った仕事をするという猛烈社員です。しかも当時の社会では自閉症に対する理解がほとんどなく、お子さんのためにあちこち駆けずり回らねばならなかったようです。それでも同期でもっとも早く課長に昇進し、同期で一番早く取締役に就任しています。しかし、このころから奥様のうつ病がひどくなり、たびたび自殺を試みるようになります。その後、会社側の配慮もあったのでしょうが、東レ経営研究所取締役社長に転出されます。将来は社長か副社長にと頑張っておられたでしょうから一時は落胆されたでしょうが、時間的な余裕はできてきます。そうすると、自分は、実は“悲劇のヒーロー”を演じてきただけではないのかと思い至るとともに、奥様から見ると、私はベッドに横たわっているだけで何もできないのに、主人はまるで何もないかのように家事万端をすべてかるがるとこなし、しかも会社では出世街道の先頭を走っていく、一体私が存在する意味ってなんなのだろう、私なんかむしろいないほうがいいのではないか、そんな気持からうつ病になり、自殺を図るようになったことが理解されるようになります。こんな思いにいたると奥様の症状も見る見るうちによくなり、今では一緒にまた旅行でもというくらい回復されているようです。人は社会であれ、家族の中であれ、どんな些細なことでも良いから、自分なりの役割があり、役に立っているのだという意識を持つことが大事なことなのでしょう。
これはどこかで読んだような記憶がありますが、リーダーというのは自ら先頭に立ち、てきぱきとすべてに指示を出し、ぐいぐいと部下を引っ張っていく、そんな人をイメージしがちですが、本当は違うのではないでしょうか。このようなリーダーの下では、自分ひとり位いてもいなくても変わらないだろうなと部下は思いますし、歯車が順調に回っているときは勢いがありますが、ひとたび狂うとそのグループは瓦解の危険にさらされます。真のリーダーというのは、部下に、自分がいなくなるときっとあの人は困るだろうな、寂しがるだろうな、そのためにも自分にまかされた仕事をしっかり果たさなければ、そう思わせる人を言うのではないでしょうか。
社会という舞台では主役ばかりでは芝居が成り立ちません。通行人というのは台詞ひとつ無い端役かも知れませんが、しかし通行人もいなければ舞台はできません。人には大きいか小さいかは別として、それぞれの持分、役割があり、その役割を果たすことで、少しでも人や社会のために役立っているのだという自覚を持つこと、あるいはそういう自覚ができる環境づくりをする配慮がこの社会で暮らしていくのに大切なことのように思います。