更新日:2013年05月28日
東京の自宅から、大学までの通勤には東武の特急電車を利用していますが、車窓から眺める四季折々の景色の移り変わりを楽しんでいます。とりわけ、今頃の季節は、利根川をはさんで全く対照的な風景がみられますので特に印象深いものがあります。東武動物公園駅あたりをすぎますとだんだんと水田が多くなり、すでに苗が植えられ青々と育ちつつあります。一方、利根川を渡ると、とくに館林から足利市にかけて、風景が一変し、黄金色の麦の穂波が風に揺れています。まさに麦秋(ばくしゅう)です。小津安二郎監督、原節子主演の“麦秋”という映画がありますが、アメリカで上映されたときのタイトルが“Early Summer”でしたから、初夏の訪れを告げる風物詩といえます。
この“麦秋”という映画は、そろそろ老境にさしかかった夫妻とその家族、とりわけ娘さんの話が中心ですが、やがて娘さんは結婚し、家を出て新しい家族が誕生します。そして夫妻は静かな引退生活へ入っていくことを決心します。一方、娘さんにもそのうちお子さんが生まれ、成長し、結婚し、また新しい家族が誕生することでしょう。そんなことが繰り返される、いわゆる人生の輪廻(りんね)をこの映画は暗示しているところがあります。
時折、同じ特急電車で顔をあわせることのあった友人も、“車窓から見えるこの風景には心が和むな”といっておりました。私自身も、やがて、このすばらしい対照的な風景を眺めることもなくなるときがくるかもしれません。しかし、そんな時でも、黄金色の麦の穂波は相変わらず風に揺れていることでしょう。