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医学用語あれこれとギリシャ神話(3)

更新日:2014年02月10日

3. パニック

以前パンナム(Pan-America)と愛称されていた航空会社があり、この飛行機に乗れることが1つの憧れでもありました。アメリカからの留学の帰り、double-bookingのためではなく、おそらく2人の小さい子供を連れていたせいでしょうか、好意でビジネスクラスに乗せてもらいました(当時のアメリカはおおらかだったようです)。次から次へといろいろなお酒のミニチュアビンが運ばれてきました。当時まだお酒に強かった(?)家内は喜んでいろいろ試していましたが、酒に弱い私はちょっと舐めて、後は旅行かばんにと損な役割をつとめていました。

さて、このパン(パーン)という言葉は“全て”という意味で、Pan-Americanism (汎アメリカ主義)Pan-Africanism(汎アフリカ主義)のように日本語では“汎”と訳すことが多いようです。もともとパン (Pan) はヘルメス(ゼウスの使神)とドリュオプスの娘との間に生まれた子供で、上半身は人間の姿ですが、ひげを垂らし、額に2つの角がはえ、下半身は山羊という姿で生まれました。母親はこれを見て仰天しますが、ヘルメスはこの子をオリンポス山にいる神々に披露します。神々は喜び、この奇怪な赤子が全ての神々を楽しませたというのでその子にパン(パーン)という名を授けました。

長じてアルカディアの森と牧人を守る半獣神となりましたが、昼寝を好み、木陰等で寝入っている折に誰かがやってきたり、物音を立てるとかんしゃくを起こし、大音響を発しました。後世のパニック(panic)はここから由来するといわれています。

なお、英語の辞書を引くと葦笛を吹くPanの図が載っていますが、葦笛の秘密はここでは触れません。

 

4. アキレス腱

その昔、学生の頃、テニスを少しだけやっていたことがあります。テニスでは肘(tennis elbow)や膝を痛めることがありますが、準備運動もせずにいきなり始めるとアキレス腱を切ることがあります。アキレス腱は下腿の腓腹筋・ヒラメ筋とかかとの骨(踵骨)をつなぐ腱で、ヒトでは最も大きく強い腱ですが、これが断裂すると走ることや、跳躍することができなくなります。このアキレス腱の由来はギリシャ神話の英雄アキレウスに由来していることはご存知の方も多いと思います。

アキレウスは生まれてまもなく母親のテティスにより、不死身にするため冥界のステュクス河に漬けられますが、母親が足首のところをつかんでいたため、この部分を浸すことができず、急所として残りました。アキレウスはトロイア戦争で大活躍しますが、敵将のパリスに右のかかとを矢で射られ、亡くなりました。こんなことから、アキレス腱は一番の弱点という意味にも使われます。