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医学用語あれこれとギリシャ神話(5)

更新日:2014年03月11日

6.エコー検査、ナルシズム(自己陶酔)

エコー検査の原理は、超音波を放射し、その反射を利用して映像化し、状態を確認します。医療分野では、とりわけ内臓の部分、肝臓、腎臓、胆嚢、心臓などの状態を観察するのに使用されています。CTと異なり、X線を使いませんし、非常に安全ということで、胎児の状況確認に使われていることも良くご存知のことと思います。

このエコー(こだま、反響)という言葉も森の妖精(ニンフ)に由来します。エコーはある日、大神ゼウスが妃ヘラの目を逃れてある女性との逢瀬を楽しんでいるところを目撃します。おせっかいで、おしゃべりのエコーは急いでヘラのもとへいき、女神の気をそらせようと、しゃべりにしゃべり、ゼウスはその間にまんまと思いを遂げてしましました。

後でこのこと知ったヘラは怒り狂い、二度と勝手におしゃべりができないようにしたばかりか、口をきくときは相手の言った言葉の終わりを繰り返すだけにしました。

一方、テーバイの近くの町に並外れた美貌に恵まれたナルキソス(ナルキッソス)という少年がいました。ナルキソスが誕生したときテーバイの名高い預言者ティレシアスは“この子は己が身を見ない限り長生きするであろう”と不思議な予言をしています。鏡のない時代、ナルキソスは自分の姿を見ることなく、すくすくと育ち、女性からも男性からも恋い慕われる立派な青年になりました。

そんなナルキソスに恋焦がれたなかにエコーがいました。ある日、森の中で、ナルキソスに出会い、熱い想いを告げようとしたのですが、“君は誰なの”と聞かれても“誰なの”としか答えられず、あきれたナルキソスは去ってしまいます。憔悴したエコーは衰弱しついに肉体は消えうせ、声だけが残りました。それで、いまだに、彼女は森陰や谷間にいて、我々が、“ヤッホー”というと“ヤッホー”という声が返ってくるのです。

いつも狩に熱中していたナルキソスはある時のどの渇きをおぼえ、思わず泉の水に口を付けようとしたところ、清らかにすんだ水の中にこれまで見たこともないような立派な青年がいました。彼は始めて恋に落ちました。しかし、いくら口説いても叶わぬ恋、徐々に憔悴し、死に絶えてしまいます。遺族が捜し求めたとき、彼の遺体はすでになく、そこには泉の中のわが身をじっと見入っているかのような水仙が一輪咲いているばかりでした。水仙はナルキソスの化身といわれます。

なお、別の説では、誕生のときの予言ではなく、その美しさに、さまざまな相手から言い寄られたものの、高慢にもはねつけた恨みを買い、ついには彼への呪いを聞き入れた復讐の神ネメシスにより、水鏡に映った自分自身に恋をすることになったという話もあります。

いずれにしても、自己愛が強く、自己陶酔型の人をナルシストと言いますが、ナルキソスに由来します。

 

7.虹彩

“青い目をしたお人形はアメリカ生まれのセルロイド・・”昔懐かしい童謡ですが、世界中には実にいろいろな瞳の色を持つ人々が暮らしています。この瞳の色は瞳孔の絞りの役割を果たしている虹彩の色彩の違いによります。

色彩の違いは主にメラニンの発現量に左右されます。日本人はメラニン色素が最も多く濃褐色(黒と見られることが多い)、メラニン量が減ると淡褐色(例スラブ人)、そして少ないのは青色(ブルー)(例北部ヨーロッパ人)が基本ですが、さらに個人個人でもさまざまなバラエティが存在します。エリザベス・テーラーの虹彩は青紫と言われていますが、メラニンがほとんどなく、もともとのブルーと血の色が混じったものと考えられています。

虹彩(イリス、英語読みでアイリス)という言葉も、イリスという女神の名前に由来します。イリス(イーリス)は最高の女神ヘラの忠実な部下で神々への伝令役(ゼウスの伝令神はパンのところで述べたヘルメス)で、その務めを果たすために、空に虹をかけて、道としていました。虹彩は虹のようにいろいろな彩からなるので、この名前がついたものと思われます。

なお、イリスの聖花はアヤメ(アイリス)で、この名もイリスに由来します。